2016年1月8日金曜日

てんかんと妊娠③ 「妊娠中に発作があったらどうなるの?」

シリーズ第3回は、妊娠中のてんかん発作についてです。

まず基本的なこととして、妊娠前に発作ができるだけ起こらないように(かつ胎児への影響が最低限になるように)薬剤を調整しておくことが重要です。

では発作がどうなれば妊娠に適切かというと、はっきりした決まりはありませんが、全身けいれん(強直間代発作)は少なければ少ないほどいいことは間違いないと思います。

全身けいれんが起こりますと、どうしてもおなかに力が入りますので、早産や流産のリスクがまず高くなってしまいます。全身けいれんがあることが胎児にどのような影響があるかはまださまざまな議論がありますが、全身けいれんの回数が多い(文献によっては妊娠中に5回以上)場合、生まれる赤ちゃんの知能に影響する可能性があるとも言われています。

逆に言えば1-2回あったぐらいでは、流産や早産にかかわりさえしなければ大きな影響はないとも言えます。実際に当院に通院されている方でも、妊娠中に全身けいれんがあった方はいますが、特に問題なく出産され、お子さんも問題を認めていません。

ただ繰り返しになりますが、全身けいれんはないほうがいいことは間違いないので、できるだけ少なくなるように治療を行ってから妊娠に臨むほうがいいでしょう。妊娠中に上記したような回数で、頻繁にけいれん発作が起こることが予想されるような状況では、まだ妊娠に臨むのは難しいということになりますね。

「今はいいよ、でも、妊娠しちゃったら発作が増えたりしないかな・・・」とお考えの方もいらっしゃるかもしれませんね。しかし妊娠前にてんかん発作のコントロールが良い方は、妊娠中も良いことが知られています。つまり妊娠をするだけでは発作が増えることは(絶対ではありませんが)あまりないということですね。ただ、例外もあります。

たとえば妊娠中に血液中の薬物濃度が低下するような薬剤を服用しておられる方は注意が必要です。妊娠はホルモンのバランスや肝臓での酵素の働きを変化させ、一部の抗てんかん薬の血中濃度を低下させることが知られています。抗てんかん薬の中でも、ラモトリギンはその影響が顕著にあります。また別の機会に書きますが、ラモトリギンは妊娠に関する安全性が高いというデータから最近はよく使用される薬剤です。その一方、このお薬は妊娠中に血中濃度が半分、影響が大きい方では1/3-1/4にまで濃度が低下し、発作が増えてしまうことがあります。ですので妊娠中には用量を増やして使用しなければならないこともあります。

こうした例外に注意しながら、妊娠中の発作を避けられるように患者さんと相談しながら治療をすすめていきます。

では、全身けいれん以外の発作はどうでしょうか?意識が曇る、体が一瞬びくっとする、自覚症状のみ、といったタイプの発作をお持ちの方もたくさんいらっしゃいますが、こうした方の発作は基本的に妊娠に影響することはありません。とにかく最低限全身けいれんだけはないようにする、というのが発作に関する基本的なスタンスではないかと思っています。

ちなみに今でも「出産の時にけいれんが起こるといけないから、帝王切開になると思います」といった説明を聞いている患者さんもいますが、これは誤りで、ほとんどの場合は通常の分娩が可能です。出産時や分娩中にけいれん発作が起こる可能性は高くはありませんが、なかには陣痛で眠れなくなり、けいれん発作が起こってしまったケースもありました。ただその場合でも発作が終わった後で普通の分娩をした方もおられますし、必ずしも帝王切開は必要ではありません。どうしても必要ならその時に産科の先生が判断されますので、最初から帝王切開を考える、というのは産科合併症が何かある場合でなければむしろ稀なことですね。

妊娠前にできるだけよい状態を作り出して妊娠に臨み、妊娠中も母体の変化への対応をとれば、発作は大きな問題にはならないことが多いということをご理解いただきたいと思います。

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