2016年8月26日金曜日

てんかんと精神症状を考える会

8月25日(木)大阪市内にて、「てんかんと精神症状を考える会」で座長と講演の演者を務めさせていただきました。

まず最初に、てんかんを診療する精神科の先生は減っている、また今後も減っていくことが予想される、というデータをてんかん学会の科目別医師の会員数と、会員の平均年齢からお示ししました。てんかん学会の精神科学会員の年齢ピークは50-60代にあり、神経内科の30-40代がピークにあるのとは対照的です。これが世に言う「精神科のてんかん離れ」ですね。会場は明らかに若手の先生も含めて精神科の先生で満席でしたが・・・。

その後はこれまでに経験した精神症状を呈する患者さんについていろいろとお話ししました。熱心にメモをとる先生もおられたので、興味は持っていただけたのではないかと思います。

こうした会をとおして、てんかんに興味を持ち、てんかんを専門にするためにてんかんセンター等で研修を受ける、といった先生が少しでも増えればいいな・・・と考えつつ帰路につきました。

2016年8月24日水曜日

市民公開講座のお知らせ

きたる9月11日(日)14時より、堺市産業振興センターにおきまして、市民公開講座の演者を務めさせていただきます。私の講演は「てんかん患者さんが利用できる制度」となっております。

てんかんで通院が必要な方は全員が自立支援医療の対象となり、医療費が軽減されます。具体的に言うと通常の健康保険をお持ちの成人の患者さんであれば、外来の医療費の3割負担が1割になります。てんかんの患者さんは抗てんかん薬の内服を長期に必要とする方も多いので、医療費が1/3以下で済むこの制度はとても利用価値が高いです。特に最近次々と発売される新規抗てんかん薬は旧来の薬に比べて価格が高く、この制度の利用価値はますます高まっています。

しかし、当院の外来を初診される方の中には、これまで何年も治療を受けてきたにもかかわらず、自立支援医療について「初めて聞きました・・・・」という方もよくいらっしゃいます。中には怒りだす方もいます。「そんなんだれも教えてくれませんでした!」これだけ医療に関する情報がネットなどにあふれている現在においても、自分にとって有益な情報をきちんと手に入れることは難しいのだなあ・・・・と実感します。

今回の市民公開講座は時間に限りがあるため詳しい説明は難しいのですが、医療費の軽減、就労の支援、生活の支援など、てんかんの患者さんが必要に応じて受けることができる制度についてご説明させて頂きます。他の先生方のご講演もきっと参考になる情報が沢山あると思います。事前申し込みは必要ありませんので、興味をお持ちの方はどうぞご参加ください。

2016年8月22日月曜日

てんかんと妊娠④-B バルプロ酸の知的発達への影響について

B.胎児の知的発達への影響

抗てんかん薬の胎児への影響、というと、ブログの前項(2016/2/15)でもご説明しましたように、胎児奇形が長年の懸案でした。この点ではもっとも影響が懸念され、かつ服用している患者さんが多いという点でバルプロ酸(VPA)が注目されました。しかし、バルプロ酸に関しては、用量が一定量以下なら他の抗てんかん薬の催奇形性と大きく変わるところはないというデータもあり、実際にVPAを服用しながらの妊娠・出産は珍しいものではありませんでした(また、それで大きな問題を感じることもありませんでした)

しかし2013年、Meadorらが発表した論文 ( Meador KJ Lancet Neurol.2013;12:244-52)は、この状況について別の視点からの注意を促し、世界のてんかんを診療する医師に大きなインパクトを与えました。対象は数十例と多くはありませんが、一定量(1000㎎)以上VPAを服用している妊婦さんから出生したお子さんは、他の抗てんかん薬を服用している妊婦さんから生まれたお子さんに比べ、6歳時の知能指数(IQ)が有意に低いというものでした。このことはそれ以前からなんとなく疑われてはいましたが、はっきりとデータとして発表したのはこの論文が初めてといってよいと思います。

数字にするとたとえばカルバマゼピンを服用していた妊婦さんのお子さんのIQの平均は106であったのに対し、VPAを服用していた妊婦さんのお子さんのIQは98でした。この関係はVPAの用量が多いと強くみられ、用量が1000㎎以下では他の抗てんかん薬との有意な差は認められませんでした。

どの薬剤を服用している群でも、平均のIQそのものは異常値ではありませんし、解釈には慎重さを要しますが、この論文により、VPAの用量が多いことは、催奇形性の面だけではなく、児の認知機能にも良くない影響がありうるということは示されたといって良いでしょう。そして、これまでよりもさらにVPAを服用しながらの妊娠に対してのハードルが上がったとも言えます。

これらの報告を受け、FDA(アメリカ食品医薬品局)のVPAに関する勧告も、年を追うごとに変化していきました。

200912
VPAにより二分脊椎その他大奇形のリスクが上昇することを患者に説明するべきである。

20116
VPAにより児の認知機能が低下するリスクがあることを、患者に説明するべきである。

20135
(VPAにより児の認知機能低下のリスクがあるので)てんかんまたは双極性障害の妊婦には他の治療薬で十分な症状コントロールができなかった場合や、忍容性がない場合にのみ、VPAを処方すべきである。

もちろん、VPAは特発性全般てんかんの第一選択薬として効果の面では確固たる地位があり、妊娠中の発作(特にけいれん発作)は妊娠経過にそれ自身が良い影響を与えないことも考えると、(FDAの勧告のとおり)どうしてもVPAを服用しながら妊娠せざるを得ない場合はやはりあります。いくらレベチラセタムやラモトリギンがあったとしても、それでは発作がコントロールできない場合はやはりあるのです。

そうした方に対しては、用量を適切なレベルに減らし、葉酸の投与を行えば(上記のMeadorの論文でも、葉酸の服用は児の認知機能を高める可能性が示唆されています)通常の妊娠・出産ができると説明しています。

次回は(これもやはり残念ながらVPAに関連するのですが)、もう一歩踏み込んだ最近の注目すべき問題点についてご説明したいと思います。

2016年8月5日金曜日

医療総合サイトQlifeで「てんかんabc」が取り上げられています

暑い日が続きます。大阪も連日の猛暑で、毎日患者さんとの会話の第一声は「暑いですね~」です。

先日ご紹介したてんかんについて学ぶことができる情報サイト「てんかんabc」が、医療情報の総合サイトQlifeで取り上げられています。少しでも多くの方のお役に立てばと思います。

https://www.qlife.jp/square/healthcare/story58172.html